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樋口鍼灸院自動車部外伝 〜新城ラリー参戦記 二台目の物語


※この物語はフィクションです。実在の人物や地名が混在しますが、現実世界と混同せずに、お楽しみ下さい。

<プロローグ>
 俺は駆け出しのラノベ作家、kantyo。高校時代の文芸部の顔も知らない後輩が、
ラノベで一山あてたと聞いて、じゃあ俺も、と挑戦したというわけ。
 ラノベ作家を目指す前は、ラリーという暴力的な自動車競技を戦う戦艦の艦長をしていた。
でも、もう何年も戦っているうちに、艦はボロボロ、俺も疲れてしまったんだ。
 そうして自宅に引きこもって、俺妹やストマ、シャナにトラドラ、そしてハルヒとなのはを足して、
いいとこ取りをした作品、「灼眼のストライク〜俺妹の憂鬱なの」を執筆していたんだ。
 これでガツンと儲けて、俺の戦艦に、いつか新品のタイヤを買ってやろう、って。
 そんな俺の所に、突然二人の美人姉妹、メイカとメイナが、現金を持って現れたんだ。
「ほら、このお金でラリーの準備をやりなさいよ!」 パープルのショートヘアのメイナが言った。
「私が乗ってあげるんだから、感謝しなさい!そのかわり、完璧なマシンで完走して、
優勝しないと許さないんだから!」
姉のメイカは終始無言だ。最初から俺の艦が気に入らないのかもしれない。
妹のメイナが次々と要求を突きつける。
「私、遅いの、嫌いだから。」
「は、早いのが、いいのか!?」
(ゲシッ!)
俺の額にヒールの踵が深々と突き刺さった。
「字が違う!さっさと準備しろ!」
こうして、俺は再びラノベ作家を諦めて、女神様姉妹の座乗する、
戦艦の艦長に返り咲いたのだった。

 俺はメイナに聞いてみた。一体どうして俺のボロ艦に降臨する事になったのか。
もしかして、俺に気があるんじゃぁ…
(ザクッ!)
俺の頭に鍼灸院治療用針が深々と突き刺さった。
「そんな事、どうでもいいでしょ!あんた、渡したお金でちゃんと部品を買ったんでしょうね!」
 ああ、もちろんさ。あんなに沢山のお金を、マシンに投入するのは初めてで、正直びびったぜ。
 ほら、見ろ、新品のSタイヤを6本。第三世界産じゃない、国産だぞ!
「BSぽてんざ。これ、いつのよ?溝の中、なんだかヒビ割れしてるけど…」
「2003年製さ。ほんの8年前の新製品だよ。ちゃんとシールが貼ってあるだろ?」
(ブスッ!)
俺の耳下腺を、治療用針が右から左へと貫通した。
「なんだって、そんな古いタイヤを買ってくるのよ!馬鹿、馬鹿、ば〜か!」
「いきなり刺すのはやめてくれよ。ほら、ホイールも4本買ったし、足回りも買ったんだよ。」
「足回りなんて、オーリンズだよ。中古だけど。オーバーホール後1万キロなんだって。
 なんだかスバルヲタク丸出しの人と入札熱くなって、55500円が勝負ラインなのかなぁって、
55600円入れたら、ほんとにそれで落札したんだよ。もう心臓バクバクもん。」
メイカが足回りの入ったダンボールを解体して中身をつまみ出した。
「バネが全部錆びてる…」
「ああ、それ、写真でもわかってたんだけど、何しろ走行一万キロだし…」
(ブスッ!バリバリバリ…)
メイナが、俺の後頭部に治療用の電気針を突き刺し、メイカが電流を流した。
「なんで、こんな錆びまみれの足回りを買うのよ!馬鹿にしてるわけ?」
いや、だって、限られた予算でいろいろ買わなくちゃいけなくて、ほら、ブレーキパッド。新品だよ。
前後一台分17000円で送料込み。ちょっと聞いた事無いメーカーだけど、良く止まるって、
ミンカラで評判だったんだ。そしてスペアタイヤが二本。
これはトーヨー製で二本で二千円…あ〜ら〜
メイカが電流のツマミを一気に右に捻る光景を最後に、俺は意識を喪失した…

<第一日目の金曜日>
 俺は、新城ラリーのレッキに参加していた。我が戦艦、大痛(オオイタ)は、美人姉妹の降臨で
本物の痛車に成り上がっていたんだぜ… 
「メイナ、意外と乗り心地いいだろう、例のオーリンズ。いや、サビリンズだったかな、はっはっは。」
「馬鹿じゃない!ところであんた、さっきから気になってたんだけど、あの、ピーピー言ってるのは何?」
「ああ、あれは今回の秘密装備。左が水温計の枝野君。右がブースト計の碇シンジ君。」
「はぁ?意味わかんない。枝野君がさっきからピーピー言ってるわけ?」
「うん。水温が100℃になると鳴るんだけど、気にしないで。」
「ふぅん。でも、120 ℃を超えてるみたいだし、さっきから私、熱くって…」
「ピー! ただちに問題は無い。」
「あの、ボンネットから蒸気みたいなのが噴出してるけど…」
「ピー! ただちに問題は…」
「そんなわけないでしょうが!何言ってるの!どうなってるの!?」
実は、二人が降臨する前に、こっそり練習をして、物凄く速くなってるのは確認していた俺。
ところが、新しいアルミラヂエターとの相性がどうも怪しくて、水温が高止まりするようになっていた。
それは、ヘッドガスケット抜け、エンジンブローの予兆でもあったのだが、エンジンの圧縮測定に
異常が見られなかった事、発生日が新城ラリーの直前だった事、エンジンの特性から、
もしヘッドガスケット異常の場合、エンジン本体にも修理が必要になる事等々から、
新城ラリーの3日間だけでも、このまま走りきれますようにとお祈りするだけに留めたのだった。
そのかわり、エンジンの悲鳴の程度を判断する為に、水温計とブースト計を取り付けたと言うわけ。
ブースト計の碇シンジ君、去年までは0.8までしか振らなかった針が、今年はなんと1.2。
因みに エヴァ出現で確率変動、 1.5を超えたら、危ないよ、と、アラームでピーとお知らせするのだ。
以上のような事を手短に二人に説明したのだが、二人は既にぐったりしている。
俺は慌ててボンネットを開けた。
「しっかりしろ!さあ、水だ、飲め!」
コンビニで買ったペットボトルの水をこれでもかとリザーブへ。
1リッターも飲んだところで二人は蘇生した。
「あんた、今度水を切らしたら、殺すわよ!」
「いや、それを言うなら、死ぬわよ、だろ?」
その後、俺は、SSレッキ走行毎に、頭に治療用針を刺したままコンビニに走り、水を買い、
二人に飲ませるハメになった。もう、ダメだ。いつぞやのモアラリー以来の0メーターリタイヤだ…
 ふらふらになって帰り着いた俺は、がっくりと膝をついた。すまねぇ、どうもこれまでだぜ…
(ジュッ)
俺のテンプルに、治療用のお灸が押し付けられた。
「あんたがそんなに馬鹿だとは思わなかったわ!壊れたなら、治せばいいだけじゃない!」
メイナが仁王立ちで言った。
「ヘッドガスケットだっけ。メイカが部品を取りに行ってくれるから、
あんたはさっさとエンジンを分解なさい!」
そ、そうだな。壊れたら、治さないと。しかも俺には女神様が二人もついている。大丈夫だ。
俺はその日、車検を早めてもらってから、一人でEJ20エンジンと向き合った。
何故か持って来ていたエンジン分解用の工具。これも神のお導きに違いない。
頭の中ではロッキーのテーマが巡る。一人でジャッキをかけ、ラジエターを外し、エキマニを外し、
インマニを外した。 外はいつしか雨が強くなっていた。この雨がもっと早く降っていたら、
案外壊れきらずに済んだのかも知れない。
そうしたら、こんな辛い作業をしなくてすんだのに、なぁメイナ。
と、ふと気がつくとメイナの姿は無かった。そうか、エンジンが止まると姿を消すのか…
いつしか俺は、EJ20エンジンの下にもぐったまま、意識を失っていった。
(ザクッ!)
俺のテンプルのお灸の横に、メタルガスケットが突き刺さった。
「ほら、部品よ!さっさと組み立てなさい!」
今度はメイカが仁王立ちだ。せっかくのポジションだが、新城ラリーは新城市教育委員会の
お墨付きのラリー。
ミニスカートの中身は確認できない。
俺は、きっと髪の毛の色とおそろいに違いないと思いながら、エンジンを組み立てた。
朝方大集合していた、地方選手権の参加者が沢山遠巻きに見守る中、エンジンは始動した。
(ガンガンガンガンガンガンガンガンガン…)
とても元気のいいタペット音が、エンジンの異常を如実に物語っている。そして、音だけではなく、
分解するまでは点灯していなかったエンジンチェックランプまでがともっていた。
必死でセンサーの接続を確認するが、異常を発見できない。
(ガンガンガンガンガンガンガンガン)
傍らにあったプラスチックハンマーで、メイカが俺をしばきまわした。
「何、壊してんのよ!」
違う、違うんだ。きっと異常な温度で無理をして、電装系に異常が出たんだ。いや、冷却のために
かけた水がどこかに入ったのかな?う〜ん、間違ったかな?(ちょっとアミバ風)
(ボグ!)
何か重たい物でテンプルを殴打されて、俺はそのまま束の間の眠りについてしまった…
もう朝なのに…

<第二日目の土曜日>
 ボロ雑巾のようになっていた俺は、目覚めと共に新城ラリーのスタートへと、戦艦大痛を操艦した。
あの、ガンガンガンという異音は、残念ながら夢ではなく、エンジンチェックランプも煌々と点灯中。
果たして、どのような症状がこの後待ち受けているのだろうか…
 そして、運命のSS1、スタートラインについた頃、枝野君がピーピー唸り出した。
ただちに問題は無い。
 5.4.3.2.1スタート。いつものようにレーシングして、発進。すると直後に失速。うわ、どうして!
アクセルを踏みつけるも、ちっとも加速しない。点火時期が遅れている様子。登らない!
「メイカ、メイナ、おい、なんとかしろ!」
すると、突然今度は急加速して、碇シンジがピーと絶叫した。
おお、行けるか!?と思った次の瞬間、燃料カットが入ってつんのめった。
「あんたの修理が悪くって、壊れてるんだから、しょうがないでしょ!もっと丁寧に運転なさい!」
メイナの怒鳴り声が聞こえた。
おお、そうか、ではアクセルをキャブ車のように、そうっと…て、やってられるかよ!
そうでなくてもツルツルの路面でしかも雨。お前ら、女神ならなんとかしろ!
と、今度は枝野君がピーピー。水温100度超。ただちに問題は無い…
こんな事をSS毎に繰り返しながら、大痛は進撃を続けた。ボロボロである…
SS6本中、スタート成功率0%。これまでのラリー出場で、スタートで失敗した事は殆ど0%。
今回は全滅の上、登りはちっとも登らず。下りでもギクシャク。
そうぅと、碇シンジ君のメモリーをチェック。1.8!一体、この艦に何が起きていると言うのだろうか…

<第三日目の日曜日>
 前日の夜、少し期待したい出来事があった。相変わらずただちに問題は無いと連呼する枝野君、
夜間、外気温の低下と共に発言数が低下。エヴァの出現も減ったのだ。
 今日、昨夜のようなコンディションを維持出来たら、なんとかギリギリ完走の上、全く何故か、
15秒程度しか開けられていないトップとの差を縮める事も夢ではないかも…と思い始めた。
 全ては、姉妹の女神の協力次第といったところだろう。なぁメイカ、メイナ。
 そして、SS7から本戦二日目が始まった。
 ところが、この日は朝から、徐々に天候が回復し、気温が上昇。初っ端から枝野君がフィーバー。
ただちに問題は無い、を連呼している。
 仕方ない。早くもぐったりしているメイナを救うべく、俺は室内のヒーターを全開にした。
これは、エンジンの水温をわずかながら下げる効果があるのだ。
 しかし、無情にも枝野君は、冷静に語り続けた。ただちに問題は無い…
 もうだめだ。加速も、登坂力も無い。スタートもきれない。このままでは俺も干物になってしまうし、
メイカもメイナも逝ってしまうに違いない。俺は、リタイア届けを引っ張り出し、リタイアを決意した。
(ジュッ。ビリビリ…)
俺の額に治療用のお灸と電気針が命中し、電流が流された。俺は、サイボーグ手術を受ける
仮面ライダーの用に痙攣した。
「な、何をするんだ!」
メイカとメイナが、息も絶え絶えに言った。
「私達は、新城ラリーを完走するために降臨したのよ!最後まで走りきりなさい!この馬鹿!」
「お、お前達こそ、一体いつまでツン状態なんだ!世の中キャラはツンデレがお約束だろう?
お前達には、デレは無いのかよ!」
「何勝手に人をツンデレキャラにしてんのよ!しょうがないわね、教えてあげる。理由はこうよ。
一つ、お前が馬鹿だから。二つ、お前が超人的に馬鹿だから。
三つ、お前が宇宙的に馬鹿だから…」
もう、わかった。もういい。この最後のSSで、灼熱地獄ともおさらばにする。泣こうがわめこうが、
知ったこっちゃ無い。EJ20エンジンを使い切ってやるぜ!
俺は、ヒーター全開、断末魔の大痛で、最終SSに突入した。室温は何℃だろうか。
隣のナビは、ラリコンが熱くて触れないと言っている。気を抜くと倒れそうなくらい熱い。
枝野は相変わらずピーピーわめくし、碇シンジも時折絶叫していた。
「本当は戦いたくないんだ。だけど、父さんが…」
SSゴール後、最後のリエゾンを走る。セレモニアルフィニッシュまであと2キロの所で、
ついに、枝野がぶち切れてしまった。水温120℃からさらに上昇。完全にブロー。
ただちに問題無いことない。
アクセルレスポンスを喪失し、今にも停止しそうなエンジンを吹かしながら、
ギリギリ桜淵に滑り込む。
俺は、ギャラリーにハイタッチで応えながら祈った。お願い、今は止まらないで…
そして、道路に出て、最期の車両保管への坂道を登る。もうレスポンスは殆ど無い。
おい、しっかりしろ。あと数十メーターだ。おい、メイカ、メイナ!
最後のチェックを終えて、車両保管スペースへ。
と、遠くで二人の声が聞こえてきた。
「本当に大切な物は目に見えないのよ。」
「おお、サンデクジュペリだな。いや、そんなのはどうでもいい。やったぞ、完走だ。」
「運転しているあなたには、私達は見えないけれど、まわりの人にはちゃんと見えてるのよ」
「そりゃ、そうだろう。まったくその通りだ。だから平気で運転できちゃうんだぜ。
でもな、おい、俺だってずっとお前達の事を思っていたさ。どうして妹キャラまで巨乳なのか、とか…」
(ボグッ ゲシッ)
一瞬、二人の姿が視界に入り、ヘルメットごしに踵落しを二人から喰らい、俺は意識を失った。
最後まで、ミニスカの中身は秘密のままだった。妹の方はもしかしたら、履いて無いんじゃないか、
薄れ行く意識の中で俺は妄想した… 俺の新城ラリーはこうしてヲワタ…

<エピローグ>
あの日、俺は完走と同時に記憶を喪失し、数日起き上がることが出来なかった。
酷暑、まるでサウナにいるような状態で、丸三日も戦艦を操ったのだから、致し方ない。
しかも、その間にエンジンのシリンダーヘッドの脱着までこなしたのだから…
そんな俺に、新城ラリーはクラス二位を授けてくれた。今、目の前に銀のトロフィーがある。
だが、こいつをもたらしてくれた二人の女神はその後現れなくなってしまった。
エンジンから噴水し、駆動力を喪失した戦艦大痛は、今、鈴鹿のドックにある。
いつかまた、その運転席からは見ることの出来ない所から現れて、俺のテンプルに治療用具や
踵落しで攻撃をしかけてくるに違いない。
その時こそ、ミニスカートの中身について、本人達に聞いてみようと思っている。
新城ラリー以外なら、きっと、ただちに問題は無いのだから…と。


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