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ファイル1 「無保険?!裁判!?」

とある日曜日、携帯電話に日系ブラジル人の青年から事故の電話。「俺、事故した!」
その日はたまたま外出中。すぐには現場には行けない旨を伝えつつ、警察への届出を促してから約二時間後に現場へ。
実は彼とはしばらく音信不通、しかも保険料が銀行口座の預金不足で引き落とされない為、保険は失効中。
保険料の払込を促す為に再三連絡を試みていたのに、住所も変わっていて所在不明中だったのだ。
やっとかかってきた電話が事故の報告とは!保険は使えないと宣告しなくてはならないのだから気持ちも重い。
電話ではすれ違い時にぶつかったと言う。センターラインの無い道路での出会い頭なら5分5分の事故だ。
事故発生から二時間経過して現場へ。すでに警察の事情聴取も終わり、相手車両は撤去され、
当事者のM君が破損した車と共に待っていた。 双方怪我が無いのが幸い。
現場はM君からはゆるい右カーブで、相手車は広い片側一車線の農道から
旧家の並ぶやや狭いセンターラインの無い道へと進入するケース。保険が使えない現状と、事故の割合が5分5分になる旨説明する。
しかし、M君が言う。「俺は止まってたよ。相手が来るのが見えたから、危ないと思って。」
M君の車は右側面を破損、路肩より奥の コンクリート塀に左側面を押し付けられていた痕跡がある。
彼の言う衝突現場を確認。路肩より外にあるブロック塀が破損していた。確かに押し付けられたように見える。
しかし、残念ながら目撃者でもいない限り、自車の停車を証明するのは極めて困難。
彼の車の修理を提携先修理工場に入庫依頼し、サービス代車を確保、入替の段取りをしてその日は別れた。

翌日、早速相手方損保会社と連絡を取り合う。相手方の主張はさかさまで、当方が猛スピードで飛び出してきたと言う。
それを避ける為に急制動したが、止まらずに追突したとの説明で、当方に一方的な過失を要求してきたのだ。
よく聞くと、現場付近にあった側道から当方が飛び出してきたと言う。明瞭な事実誤認。これはおかしい。
いかんせん、当方は保険が効かない。代理店として示談交渉の代理権はもともと無い。
しかし、ここは方便、当方任意保険無し、日本語不自由につき、窓口をお引受します、と
相手損保の了解を得る。当方の主張を説明、当方の過失0%を主張。当方車の 修理代金と代車代を請求する。
その後、数日おきのペースで相手方の意向を確認するが、明瞭な回答が得られない。
相手方の意向を確認すると言いながら、待たされつづけること2週間。どうも無視されているようだ。

保険が効かないのは保険料を口座に残しておかなかったM君の責任。
住所変更の届けが無かったのも彼の責任。突き放しても責められる状況ではない。
でも、このままでは彼はどうなる???

M君に事情を説明し、少額訴訟を勧める事にする。日本は被害者立証制度の国。被害者が自ら損害を明確にして
申し出ないとやられ損となる国
なのだ。訴状書類一式を貰ってきて、彼の言い分を代筆し、記名捺印をもらい、 裁判所に提出する。

数日後、裁判所より書類が届いたとM君。見せてもらう。相手方は損保会社を通じて弁護士に委任。
少額訴訟を通常訴訟へと変更の申し立てをしてきた。本格的に裁判で争う構え。
当方の損害額は約40万円。弁護士を雇えるお金も無い。相手方の抗弁書を読む。
怒る。とんでもない事実誤認。当方の一方的な過失を要求する内容だった。
事故の現場、車両の破損状況、双方の事故報告内容をつきあわせると客観的にもM君の
説明の方が筋が通る。自社の損害を抑える為なら嘘でも何でも主張する、そんな保険会社の姿・・・

弁護士以外の者が、裁判等で弁護士の業務を行うことを非弁行為と言い、法律違反。
私が代理人になる事は出来ない。しかし日本語の読み書きが充分ではない彼の、読み書きの手伝いを
無償でならし得る。(ちなみに有償で作成すると今度は司法書士の領分を侵すことになる。)
徹底的に黒子に徹しつつ証言を用意。通訳も確保した。

本人も出廷しての口頭弁論が何日も続く。相手方弁護士の資料は一見して保険会社とリサーチ会社の用意したもの。
この間、当方の用意した通訳に難癖をつけて、有償で裁判所手配とさせられる。曰く、公平性を保つためとか。
当方の裁判への費用負担と心理的圧力作戦以外何者でもない。実に汚いやり方だ。

当方も修理代金決済に時間がかかる旨修理工場の了解を得つつ、代車料の支払いを先行完了させ、
領収書を確保、訴額に乗せる。通常認められない代車料も、実際に支払いがあればこれを
損害額として認定する判例がある
のを発見したからです。

数次に及ぶ口頭弁論の中、相手側のちゃらんぽらんな本人供述や、M君の真摯な態度、そして
相手方はリサーチ結果を持っているのにその結果を公表しないとう点を突いたことで、
ついに相手方から譲歩案を引き出す。「相手責任80%-当方20%。訴訟費用は各自負担。
代車料は含まない」この提案を検討、差額を相殺してなんとかM君は実費負担を免れる水準。
訴訟開始から約6ヶ月。ようやく和解となった。

何度も裁判所へと通い、法務官から何度も職業を尋ねられたが、最後の頃には信頼関係も出来、
書類を直送してくれるまでになりました。それにしても腹が立つのは保険会社の提示した条件。
「代車料は否認」この意味がわかりますか?
これは、代車料を認定した、という判例上の実績が残る事を恐れたからにほかなりません。
また、過失割合で大きく譲歩したのは、当方が判決を求める姿勢を貫いたからと思われます。
「弁護士を投入しての請求事案で、素人に敗訴」という履歴を
残したくなかったのでしょう。(和解ですから、判決文はの懲りません。)
それにしても、弁護士もお粗末でした。完全委任を受けているにもかかわらず、委任者である
保険契約者に仕事を休ませて出廷させ、逆に裁判官の心証を悪くする失態。
おそらく事前に充分な打ち合わせも無かったのでしょう。まるでチンピラのような風体と
物言いでしたから、当方は随分と助けられました。

本事案は保険会社同士の示談交渉であれば、双方の主張の中を取って40-60程度で
説得されていた可能性があります。この点では、M君には無保険でかえって良かった?のかもしれません。

本当に大変な日々で、今でも書類はファイル一冊分あります。正しい事は正しいと主張する、そんな姿勢に自信を持ちました。
この後、彼は保険料を完納。住所も日本中を転々としながらも連絡をくれます。「俺、今神戸!住所、変わった!」





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